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農薬散布機のモーターアンプ

このモータアンプは、電動の農薬散布機等のモータ回転数制御に使えます。ここで言う散布機はラジコンヘリコプターや、マルチコプター等のドローンに搭載して空中で農薬を散布する機構を想定しています。ラジコン信号側を絶縁してあり、ノイズに強くなっています。電源はハイボルテージに対応しています。CPUはRenesasのRL78/G13を使用し、プログラムの書き換えで電子工作にも利用できます。これは同社のがじぇっとるねさすプロジェクトのGR-KURUMI基板と互換です。

従来のリレーアンプは負荷のON/OFF機能しかありませんでしたが、このモーターアンプは負荷をPWMで駆動します。送信機のスティックワークでDCモーターの回転数を変えることができます。あるいは送信機のスイッチCHでATV(トラベルアジャスト)機能を使って、ON位置の回転数を変更できます。

従来のリレーアンプを空中散布のモーターの制御に使う時にON/OFFだけであれば、ONは電池電圧がモーターに直接かかるので、散布機の定格により使用電池が制限されます。ところが最近はLi-Po電池がリーズナブルになって来て、これを使いたい要望があります。Li-Poの電圧を散布機の電池電圧に合わせるには、スイッチングレギュレータで電圧を落とせば適合できます。しかし、負荷状況によっては電圧を変えて回転数(トルク)を変えたくなります。昔のカー用アンプ(スピコン)でも可能な機能ですが、バック機能は不要ですし、DCモーター用は供給に不安があります。そこで、従来のリレーアンプを高機能化してDCモーターの回転数をコントロール出来るようにしました。

本当はトルクを変えたい

農薬の散布を考えると調整したいのは散布量と思います。散布量は薬剤の粘度や気温(水温)にも影響を受けます。バッテリー電圧も。そう考えると本当はモーターのトルク制御が必要になります。しかしこれをすると消費電流を計測してフィードバック制御になってしまいます。コストを押さえる為もあり、今回は単純にPWMによるオープン制御としました。バッテリー電圧を高速にON/OFFして、モーターへの供給電圧を可変する方式です。よってカーラジコンのスピコンから逆転機能を除いたようなモーターアンプになりました。トルク制御は次回以降の課題です。

特長

今回のこのモータアンプは、モータ側の接続方法により2種類作成しました。従来のリレーアンプと同じ接続方法と、スピコン(スピードコントローラ)と同様な接続方法のものです。

リレーアンプタイプの負荷側のケーブルは2本です。これは従来品のリレーアンプとそのまま入れ替えを想定しています。。パワーMOSFETのドレインとソースをそのまま引き出しており、オープンドレインのドライブ回路になっています。ソースはGND(グラウンド)と同電位で、CPU側GNDとタイです。ただし、大電流が流れるモータ側と、信号が流れるCPU側のGNDはパターンの引き回しを考慮しており、パターン自体がノイズに強くなっています。負荷側の接続は、電池とモータを直列に接続したイメージになります。電池の最大使用電圧は約14Vとしますが、これはLi-Poの3セル使用を想定しています。

装置の電源はラジコン信号側から供給します。最大入力電圧は三端子レギュレータの定格で制約を受け、最大14Vです。しかしこれは、ハイボルテージの受信機電圧には余裕で使用可能です。ラジコン信号はフォトカプラにより絶縁しています。

スピコンタイプの負荷側はケーブルを4本引き出しており、短い赤黒のペアーを電池に接続します。長い赤青のペアーをモーターに接続します。この時基板上のフライホイールダイオードが接続状態になりますので、モーター側に用意しなくても大丈夫です。ただし、モーターによっては容量不足かも知れません。
CPUの電源はこのタイプもラジコン信号側から供給します。またラジコンの信号も同じで、フォトカプラで絶縁していて、ノイズに強くなっています。
更に、スピコンタイプでは、CPUの動作電源をモータ電池側から取る、所謂BEC方式とすることも可能です。これはチップ部品の付け替えが必要なのである程度、回路図が読める程度の知識が必要です。この時でもラジコン側の電源はphotoカプラのLEDを駆動する為に必要です。ラジコン系と完全に絶縁状態になりますので、ノイズが気になるときは考慮してみてください。

リレーアンプタイプもスピコンタイプも基板は同じものです。モータ側のケーブル引き出し方法が異なるだけです。

このモータアンプはCPU基板とドライブ基板の2階建てです。CPUはRenesasのR5F100GEAです。これはがじぇっとルネサスのGR-KURUMI基板と同じですがFlashROM容量が異なります。XTALも実装していません。ただしコネクタの配線を互換にしています。またKURUMI基板に合わせて高輝度3色LEDも使いました。 電子工作としてみれば、KURUMIのCPU基板にラジコン信号の入力と、オープンドレインのFETドライブ基板を付加したものになります。よってプログラムを変更して他の目的に使うことができます。詳しくは回路図を参照してください。

ドライブ基板にはFETの他に三端子レギュレータとラジコン信号の入力回路があります。残念ながらこの基板にはジャンパー処理が発生してしまいました。写真はリレーアンプタイプのドライブ基板です。

モータアンプは次のように動作します。
(1)まず、電池が接続されてもラジコン信号が供給されていない時、あるいは最初からモータが回転するようなスティック位置であれば、LEDは青色に点灯します。モーターは回りません。
(2)次にラジコン信号がモータの停止状態の位置になれば(スタンバイ時)LEDは緑色で光ります。サーボ信号のパルスとしては、900~1200uSを受信している時にLEDが緑色になります。
(3)スティックを動かして、1200uS以上のパルス幅になればLEDを赤色に点灯し、モータを駆動します。
(4)ラジコン信号が約1900uSは約80%のdutyで電池をON/OFFします。ラジコン信号が約2100uSでは100%dutyになり、電池電圧がそのままモーターにかかります。ラジコン信号1900uSはラジコン送信機においてはH側100%に相当します。2100uSはH側150%に相当します。最大値をいくらにするかは送信機のATV(トラベルアジャスト)で設定します。なお、duty80%は計算上、3CELL=11.1VのLi-Poで約8.9Vになります。

本モータアンプは、単にFETをCPUのPWMで駆動しているだけで、送信機のスティック位置と比例するのはPWMのdutyのみです。つまりモーターをトルク制御はしていないので、その時の電池特性あるいは負荷状態によってスティック位置と回転数は異なります。

仕様

負荷駆動は東芝のMOSFET(TPCA8057-H)を使用しました。これはVDS=30V,ID=42AのFETです。接続の電池電圧はVDSの半分として、最大15Vとしてください。また電源のレギュレータはJRCのNJM2872A33です。この入力電圧は最大14Vです。よって本装置としては電池電圧は、BEC方式を考慮して最大14Vとして、Li-Poは3CELLまでとしてください。
負荷電流はFETの定格、FETの放熱、ケーブルの太さ、基板のパターン幅などに影響を受けます。実際に何アンペアで破壊するのかは試していません。仕様としてはFETのIDを1/3にディレーティングして10A程度とみてください。これは定常値です。ちなみにこのFETの瞬間値(ドレイン電流パルス)は126Aです。

なお、本装置は過電流検出はしていません。例えばモータがロックしていて整流子がショート状態であれば、電池をショートさせたのと同じ状況です。整流子、ケーブル、基板パターン、FET、あるいは電池が発熱、発火のおそれがあります。自己責任で注意して使用してください。

  • サイズ:約43x25mm、高さ約12mm(シュリンク、ハーネス含まず)
  • ハーネス:シリコンケーブルAWG16、約15cm(モータ側),約9cm(電池側)
  • FET絶対最大定格:VDSS=30V,ID=42A

接続

接続例

写真はスピコンタイプの接続例です。左半分は受信機回路なので説明は省略します。写真の黒い筒のLi-Poは3CELLの物です。短い方の赤/黒のケーブルにT型コネクタを半田付けしてバッテリーに接続しています。長い方の赤/青のケーブルにモーターを接続します。テストなのでコネクターは省略してミノムシクリップで接続しています。モータの回転方向は赤/青のケーブルの入れ替えで対応してください。なお、赤いケーブルは基板上で接続していますから、どちらを使っても同じです。写真ではモータアンプのLEDが赤く点灯して回転中を示しています。

接続例

一方、この写真はリレーアンプタイプの接続例です。ミノムシは解り難いので端子台に変えてみました。電池のプラス線(赤色)をモーターの一方につなぎます。モーターの片方はモータアンプの青いケーブルにつなぎます。モータアンプの黒いケーブルを電池のマイナス線(黒)に接続します。こういう接続時はモータに保護ダイオードと雑音防止用コンデンサを取り付けてください。ダイオードのカソードが電池のプラス側になります。

接続例

ドライブ回路はオープンドレインなので電池・モータ・FETの順を想定していましたが、リレーアンプを電池・FET・モータの順に接続される方もいました。写真はモータアンプで再現した接続です。電池のプラス線(赤色)をモータアンプの青い線につなぎます。モータアンプの黒い線をモーターの一方につなぎます。もう一方のモーター線を電池のマイナスにつなぎます。黒線が接近していて解りにくい写真になりましたので、写真をクリックして再確認してください。
この接続方法は特に、モーターを駆動する電池はモーター専用にしてください。決してBEC方式等でモーター電池とラジコン側電源を共有しないでください。ラジコンのGND(ラジコン電池のマイナス)とモーターのマイナスに電位差が生じています。

接続例

モータを高輝度LEDに変えてみました。スティック位置で明るさが変わります。

使い方

モータアンプのスピコンタイプ、リレーアンプタイプどちらもラジコン信号側の接続方法は同じです。最初はスロットルCHに接続してモータの回転の様子を確認することをお薦めします。その後ギアCH等に差し替えてください。ギアCH等レバースイッチのCHに接続したとき、回転数調節はATV(トラベルアジャスト)機能を使ってください。

電源を入れるときは、送信機、受信機の順に電源を入れ、最後にモーターを回す電池を接続してください。受信機から該当CHの信号が1200uS以下になっている時にモータアンプのLEDが緑色に点灯します。

受信が1200uS以上になるとLEDが赤く点灯し、モータが回り始めます。負荷が重ければ、更に動作量を増やさないと回転を始めません。モータが固着している時は発火、発熱に注意してください。

電源が入った時に既にラジコン信号が1200uS以上だとLEDは青色点灯のままです。つまり、最初からFETがON方向だと安全の為に動作しないようにしてあります。ラジコン信号はパルス幅が大きい方向が動作方向です。これは固定なので必要に応じてリバース設定をする等して、動作方向を変更してください。

FETには構造上寄生ダイオードが存在します。本装置で言えば、ケーブルの黒色から青色方向に電流が流れる向きです。よってラジコン信号がなくても、電池を反対に取り付けるといきなりモータが回転を始めます。本装置のケーブルの赤色もしくは青色が負荷電池のプラス側になるように接続してください。

使用例

モータ接続例

風呂用水中ポンプを駆動してみました。夏場の水やりに使うつもりですが、PWMにして回転数を変える必要はなかったと思います。駆動時間を管理すれば良いのですから。しかし、無負荷でモータを回すより、水の抵抗で負荷を掛けてみたと言う実験です。

回路

回路図の囲みの中がCPU基板で、外側がドライブ基板です。抵抗値及びコンデンサ容量は乗数標記です。抵抗値でRR999は未実装です。
FETのTPCA8057Hはゲート電圧3.3VでもONしますが、実験したところ、FETの発熱が多かったのでQ5を追加してドライブ電源を三端子の入力側から取ることにしました。

免責事項

本装置の使用による損害、使用不能から生ずる損害、事故による損害、または事故責任等に関し弊社は一切責任を負いません。自己の責任において十分注意して安全に御使用ください。